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【映画】【ネタバレあり】『アベンジャーズ/エンドゲーム』「マルチバース」解説

2019/06/05

05 Movie

前項「【映画】【ネタバレあり】『アベンジャーズ/エンドゲーム』小ネタ集4」の続きでもあり、独立項目にもなっている。1項目丸ごと「マルチバース」の解説。おそらく、ここまで詳しく解説したページは他にないと思う。

ただ、これを先に書いておかねばなるまい。
長いよ。


※ここから先、『アベンジャーズ/エンドゲーム』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』、および過去のMCU(Marvel Cinematic Universe)作品のネタバレがあります。未見で、かつネタバレを読みたくない方は、一旦お引取りくださいませ。


























【ここからネタバレ】

エンシェントワンとバナー博士の会話シーン。
ぶっちゃけ、ここの描写が良くないから脚本家チームが勘違いしちゃってるという……

■「マルチバース」と「ユニバース」
【映画】【ネタバレあり】『アベンジャーズ/エンドゲーム』小ネタ集1」で触れた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『スタートレック』『ターミネーター』等々。これらは作中で「過去を変えたら、現在や未来が変わる」映画として挙げられており、すなわちこれは、『エンドゲーム』の世界は「そうではないよ」という説明、というか宣言である。

「過去を変えたら、現在や未来が変わる」世界が「ユニバース」、「過去を変えても、現在や未来は変わらない」世界が「マルチバース」である。

文字でつらつら書いてもたぶん分かりにくいので、図で解説する。

【図1】ユニバースにおける過去改変の影響

例えば現在から過去へタイムトラベルしたとして、到着した過去のある時点の歴史的な事実を、本来のものから変更してしまったとする。

世界は単一である、という「ユニバース」設定の世界では、変更されてから後の歴史は、すべて変わる。たとえトラベラーが「かつての現在で体験した事柄」、上図でいう赤矢印の部分は別のもの(青矢印部分)に置き換えられてしまい、赤矢印の部分は「なかったこと」になってしまう。「過去を変えたら、現在や未来が変わる」とはすなわち「過去を変えたら、かつてあった現在や未来はなくなってしまう」ことと同義である。分かりやすい例は『バック・トゥ・ザ・フューチャー Part2』。あの映画全編が、マーティとビフの過去の改変合戦であり、改変するたびにいちいち現在や未来が変わる。ものすごく練られていて、それを楽しむ映画である。

【図2】マルチバースにおける過去改変の影響

「マルチバース」の場合、現在から過去へタイムトラベルして、過去のある時点の歴史的事実を変更してしまった場合、トラベラーが「かつての現在で体験した事柄」のある世界(A)(=世界線、時間軸)はそのままに、歴史的事実が変更された世界(B)が「新たに誕生」してしまう。これを「歴史の分岐」という。『エンドゲーム』劇中でローディが「赤ん坊のサノス殺すのは?」と提案して却下されたのは、もし赤ん坊のサノスを殺したとしても、それは「サノスが赤ん坊の頃に殺された世界」に分岐するだけで、本編現実で起こったサノスの一連の行動にはまったく影響がないから。

だからアベンジャーズの目的は「タイムトラベルで過去を改変して現在を変える」ではなく、「タイムトラベルによって集めたインフィニティ・ストーンを現在に持ってきて現在を変える」。ストーンさえ現在に集めてしまえば、そこから先は過去とも時間軸とも無関係な、現在の問題である。少し意地悪な言い方をすれば「俺達は現在を変えられさえすればOK。ストーン集めの最中に誕生してしまった新しい時間軸のことなんて知ったこっちゃない」ということ。

【図3】マルチバースにおける過去改変が複数回あった場合の影響
 

例えば未来を変えようとして「あ、過去改変を間違えちゃった」場合、それを元に戻したくて別の改変を試みたとしても修復することはできず、別の新たな世界、時間軸を生み出すだけである。世界線(A)の改変から世界線(B)が誕生したとして、それを修復しようとしても(B)を(A)に戻すことはできず、世界線(C)や(D)が誕生するだけである。ちなみに、理屈の上では、新しい世界線、時間軸の数に制限はなく、実質「無限」である。

なお「過去を改変」とか「過去に干渉」とか書いているけど、極端な話、「その時間軸にタイムトラベルした」だけで、既にそれは改変もしくは干渉である。本来の時間軸にはなかったものが現れた訳だから。もちろん、程度の問題はあって、こっそり現れてこっそり消え去れば、歴史に残す爪跡も少なくて済んで、その後の歴史の変化も少ないだろう(「まったく変化しない」という訳にはいかない。この説明でよく挙げられるのが「バタフライ・エフェクト」。本来はカオス力学用語だが「蝶の羽ばたき程度ですら将来的には大きな影響がある」の例えで用いられることが多い)。

歴史に大きな影響を与えるものでいえば、タイムパラドックスでよく挙げられる「過去の本人殺し」「過去の先祖殺し」。ユニバース設定では「過去の本人/先祖を殺した時点で本人が消える」(分かりやすい例は、過去の両親が結婚する可能性が下がるにつれて自分の誕生の可能性が低くなり、写真の自分が消えかけた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマーティ)、マルチバース設定では「本人が生きていた世界はそのまま残り、本人が生まれなかった別の世界が誕生する」『エンドゲーム』本編、2023ネビュラが過去の自分である2014ネビュラを射殺しても、202ネビュラに本人にまったく影響はなかった。これは、2014ネビュラが2023年にタイムトラベルした時点で時間軸が分岐しており、2023ネビュラとの繋がりがなくなっていたからである。

■「MCU的」マルチバース
ここまでが「物理学やSF世界では一般的な」マルチバースの解説。回りくどい書き方をしているのは、『エンドゲーム』におけるマルチバースが、それらとはちょっと異なるらしいから。

【図2】もしくは【図3】を参照して欲しいのだが、マルチバースの世界において、もし過去に干渉して新たな世界、新たな時間軸を発生させてしまった場合、世界線(A)から転移したタイムトラベラーは、分岐した世界線(B)上にいるので、世界線(A)に戻ることはできない。新たに誕生した時間軸上にいる人物が、別の時間軸を指定することはできす、新世界のタイムライン上を移動するだけである。
でも、トニー・スターク製「時空GPS」だと、それができるらしいのですよ(そう仮定しないと、2012年NYのエンシェントワン時間軸や、ストーンを拝借した時間軸への移動ができない)。さすが天才。

※ひょっとすると「時間軸を指定して移動する機能」は、あのアベンジャーズ本部や湖畔で使ったお盆型ステージ+装置の方にあるのかな?とも思ったけど、最後のキャプテンの「ストーン返却の旅」では、出先でキャプテンがどんどん別時間軸に移動している筈なので、あの腕時計型時空GPS自体にその機能があると考えるのが妥当。やっぱトニー天才。

【図4】MCU世界におけるマルチバース

■エンシェントワンとバナーの会話
「4」で少し触れた「脚本家チーム、マーカス&マクフィーリーによるキャプテン・アメリカ同時間軸生活説」について、もう一度転記。重要部分を赤字にした。

『作中でエンシェント・ワンはインフィニティストーンをその時間軸から動かしたときに世界線が分岐すると明示している。よってスティーブが過去に戻りそこで暮らすだけでは世界は分岐しない。だから私は「スティーブが平行世界で生きた説」は否定する』

さて、この「勘違い」の元となった。エンシェントワンとバナーの会話について、具体的に見てみよう。長くなるけど、大事なところなので全スクリプトをペーストしておく。これも重要部分を赤字にした。

Bruce Banner:
Please, please!
Ancient One:
I'm sorry. I can't help you, Bruce. If I give up the Time Stone to help your reality, I'm dooming my own. With all due respect, I'm not surethe science really supports that. The Infinity Stones create what you experience as the flow of time. Remove one of the stones, and that flow splits. Now this may benefit your reality. But my new one, not so much. In this new branched reality, without our chief weapon against the forces of darkness, our world will be overrun. Millions will suffer. So, tell me, doctor, can your science prevent all that?
Bruce Banner:
No. But we can erase it. Because once we're done with the stones, we can return each one into its own timeline at the moment it was taken. So, chronologically... In that reality.... it never left.
Ancient One:
Yes, but you're leaving out the most important part. In order to return the stones, you have to survive.
Bruce Banner:
We will. I will. I promise.
Ancient One:
I can't risk this reality on a promise. It's the duty, of the Sorcerer Supreme to protect the Time Stone.

エンシェントワンの発言
インフィニティ・ストーンは時の流れを作り出しています。ストーンを取り除くと、時の流れは分岐します
新たな分岐した現実に、最高位の武器(=タイム・ストーン)がなければ、その世界は滅びます
数百万人の苦しみを(あなたの)科学は防げますか?

バナー博士の発言
いいえ(数百万人の苦しみは防げません)。ただ、(数百万人の苦しみそのものを)なかったことにすることはできます。なぜなら、ストーンで目的を果たしたら、私たちは元のタイムラインの拝借したその瞬間にストーンを戻すことができるからです。そうすれば、歴史的に、現実的に、ストーンはなくなってないことになります


●間違いその1
「インフィニティ・ストーンが時の流れを作り出している」という設定はない。エンシェントワンの持つタイム・ストーンには「時の流れを操作する」力があるが「時の流れそのもの」を作り出しているという事実は(裏設定でもない限り)ない筈。


●間違い(もしくは言葉足らず)その2
「ストーンを取り除くと、時の流れは分岐する」のは、ストーン固有の問題ではない。「(ストーンを含む)そこに存在していたものがなくなった」ら「時の流れは分岐する」。
脚本家チームは「ストーンを取り除くと分岐する」を「ストーンさえ無事なら(他に何があっても)分岐しない」と解釈している。これはもうあきらかな勘違い。なぜここまで大胆に勘違いできるのか理解に苦しむレベル。

なお、上記の発言でエンシェントワンが危惧しているのは「ストーンを失って世界が分岐すること」ではなくて「分岐した世界にストーンがなくなること」。分岐そのものについてはほとんど問題視していない。


●間違い(もしくは言葉足らず)その3
バナーの「ストーンを元の瞬間に戻せば、ストーンはなくなってないことになる」は正確ではない。正しくは「ストーンを元の瞬間に戻せば、ストーンはなくなってないのとほぼ同じ状態になり、歴史への干渉は少ない」あたりか。

ただ、このときの映像が……

上図の黒い線がエンシェントワンが心配する「ストーンのなくなった世界」。バナーが分岐点にストーンを戻して、「黒い線を消して」「元の時間軸に戻し」ちゃってる。

何を偉そうに、と思われても仕方ないけど、はっきり書く。ここは、映像が間違っている。

【図5】ストーン早期返却による最小影響の分岐

「タイム・ストーンが存在しない」というものすごく重大な事実は、確かに放置しておけばとんでもない流れになってしまうだろう。エンシェントワンが心配したのは、【図5】の上の方のパターンになっちゃうこと(だから、分岐云々よりも「お前らホントに勝って石返せんだろなオイ?」的なことを重要視している)。

だから、バナー博士にできるのは、「最小限の影響でなるべく元の時間軸に近い(似た)タイムラインになるようにすること」。「分岐した時間軸を元に戻すこと」ではない。というかそんなことは「マルチバース」では不可能。「変化したものを元に戻したから歴史の流れも元に戻る」は「ユニバース」の考え方。マルチバース展開を宣言したんだから、そこ間違っちゃいけない。


■キャプテン・アメリカのやり直し人生
脚本家チーム説と監督説が分かれた問題のこれ。詳細は「4」に書いたので割愛。ここでは図で表してみる。

【図6】キャプテン・アメリカがやり直した「二度目の人生」

上が脚本家説、下が監督説。脚本家説がマルチバースでも何でもないことがひと目で分かる。

2023年からストーン返却の旅に出たキャプテン・アメリカはすべてを返却した後で(おそらく)ペギーと約束をした1945年にタイムトラベル(図上では見やすいように返却過程は割愛して単純化)。そこから「分岐しないで、今までの物語と同じタイムラインで生きてきて2023年に登場した」というのが脚本家説。「分岐した世界のタイムラインで生きて、2023年にタイムトラベルで戻ってきた」が監督説(別タイムラインから離れた年を2016年にしているのは、元のタイムラインでペギーが亡くなった年だから。別ラインなのでこの年に亡くならなかった可能性もあるけど便宜上。ぶっちゃけどの年からでも時空を飛んで戻ってこられる。トニー天才)。

どっちが「設定上」正しいかはこれで一目瞭然。疑問はほぼ解決した。

ただ、スティーブがサムに引き継いだ「キャプテンの盾」、あれがどこから出てきたのかが、実はよく分かってない。
オリジナルは2023年のサノスとの戦いで半壊。ストーン返却のトラベル時には持ってない(返却用のムジョルニアは持ってたのに)。しかも、今まで使っていた盾とは微妙にデザインが違う説もある(わたしは未確認)。
まあこっちは、矛盾というよりは、想像の余地がありまくる話なので、むしろ夢がある。「ハワード・スタークにまた作ってもらった」とか「トニー・スタークに作ってもらった(実際『アイアンマン2』で試作している)」とか「ワカンダで作ってもらった」とか、いろいろ妄想が膨らむのは、悪くない。


【余談】
ひとつ書き忘れてた!マルチバースとはあんまり関係ないけど。

スティーブは、拝借してきたインフィニティ・ストーンをすべて元の場所に戻す為にタイムトラベルの旅に出た。赴くべき時代+場所は5ヶ所(2012年ニューヨーク、1970年キャンプ・リーハイ、2013年アスガルド、2014年惑星モラグ&惑星ヴォーミア)。つまりはその分のピム粒子が必要。失敗や無駄遣い(スコットがやっちゃった奴)の可能性も考えて、おそらく予備のピム粒子は持っていたと思われる。ただ、「1945年」へのトラベルはキャプテンの思いつき?なので、当初の計画にはなかった。ハンク・ピム博士が復活してるから本数はいくらでも用意できるとしても、いちおうそれなりに貴重なピム粒子、さて、その分「計画外」の分のピム粒子は……

タイム泥棒作戦の最中に、1970年キャンプ・リーハイで、スティーブがガラスケースからピム粒子をこっそり拝借したのを覚えてますか?その数は4本。2本はスティーブとトニーが2023年に戻るときに使用した(この拝借分がなかったらふたりは帰還できなかったのよ。何という無謀な計画……)として、残り2本。おそらくそのうちの1本を、ペギーとの再会に使ったのであろう。しかもこのピム粒子拝借の直後、過去のペギーを見たことが、今回のキャプテンの決意に繋がったものと推測される。ピム粒子がキャプテンの運命を変えたんじゃないだろうか、というお話。