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【映画】【ネタバレあり】『アベンジャーズ/エンドゲーム』考察

2019/05/18

05 Movie

「アベンジャーズ/エンドゲーム」MovieNEX 予告編

『アベンジャーズ/エンドゲーム』(字幕)@109シネマズ港北。


2回目の鑑賞。1回目を観たあとで、さらに国内海外のネタバレサイトを調査して、見落としていた、見過ごしていた点を補う為に、メモと鉛筆片手に鑑賞。ついでに腕時計で時間も計測。それでも見落としはたくさんあると思うけど、とりあえず現時点での感想。

※ここから先、『アベンジャーズ/エンドゲーム』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』、および過去のMCU(Marvel Cinematic Universe)作品のネタバレがあります。未見で、かつネタバレを読みたくない方は、一旦お引取りくださいませ。

前作今作で、ロケットの明るさにかなり救われたなあ、と思う。あとスコット。






















【ここからネタバレ】

『アベンジャーズ/エンドゲーム』(以下『エンドゲーム』)は、不思議な映画である。

前作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(以下『インフィニティ・ウォー』)は「敗北の物語」だった。地球を守るアベンジャーズが、それはもう完全に、完璧に、完膚なきまでに完敗した。救いもなんにもないラストで茫然自失した人も多かった。
『エンドゲーム』は、そんなアベンジャーズたちの「逆襲の物語」…… だったならば、話は単純だった。甚大な被害を受けた人類が立ち上がりアベンジ(正義の復讐)を達成する物語であれば。でも、実際は、そうではなかった。

冒頭、クリントが家族を失うシーンから始まる。不気味で恐ろしくて切ないシーン。サノスの「指パッチン」で、全宇宙のあちこちでこんな光景が現出していたかと思うと鳥肌が立つ(『インフィニティ・ウォー』で「サノスの言い分にも一理ある」とか言ってた人には、この想像力が決定的に足りなかったんだと思う。特定の個人が企てた意図的な粛清。「無作為だから慈悲」ってそれテメーの勝手な都合だろうよ、と)。

『インフィニティ・ウォー』で敗北した当の相手であるサノスを探し当てて(正義の)復讐を試みるも、目的を果たしたサノスはすでに隠遁(枯れたじいちゃん化)しており、おまけに喫した敗北を覆す可能性のあったインフィニティ・ストーンは、サノスにより消滅させられていた。更に、『インフィニティ・ウォー』のラストで致命的な判断ミスをしてしまった雷神ソーが「感情的に」サノスの首をはねてしまう…… 実はソーのこの行為によって、サノスの「完全勝利」が確定した。言い方を変えれば「勝ち逃げ」させてしまったのである。

初っ端(ちなみにここまでで15分)で、前作『インフィニティ・ウォー』の「敗北の総仕上げ」をしてしまった。追い鰹ならぬ追い敗北。復讐すべき相手がいなくなり、ただ甚大な被害だけが残った世界。

『インフィニティ・ウォー』+『エンドゲーム』の本筋は、おそらく多くのヒーロー映画ファン、MCUシリーズファンが期待していたであろう「敗北と逆襲の物語」ではない。「敗北と回復の物語」もしくは「敗北と回復と復活の物語」である。だって、そもそも逆襲する相手がもういないんだもの(ラストのバトルについては後述)。

「5年後」のテロップ(ところで、あそこの日本語字幕、「FIVE」→「YEARS」→「LATER」に合わせて少しずつ出すことはできなかったのだろうか?館内でちょっと失笑が漏れてたよ)のあと、スティーブ(キャプテン・アメリカ)が市民をカウンセリングする場面に変わる(未見の人は『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』を観ておくこと)。カウンセリングが目的とするところは通常、相談者、依頼者の問題の「解決」だが、現実的には問題はそうそう簡単に「解決」できない。なのでカウンセラーは問題の「解消」や「忘却」を目指す(だから、言い方は良くないけど、心や身体を「ごまかす」投薬治療が有効とされている)。

『エンドゲーム』の冒頭で、形の上での復讐は終わってしまっている。しかし復讐した相手には勝ち逃げされており、達成感どころか虚しさしか残っていない。しかも消滅した人々は戻ってこない。有り体にいえば「何もやれることがない」状態。問題が解決できない(と当初は思われていた)ならば、忘れるか、もやもやを抱えたまま、それでも前に進むしかない。全世界的大ヒットのヒーロー活劇映画がそんな始まり方するかあ?という驚き。

「キャプテン・アメリカ」スティーブ・ロジャースは自分自身で「前に進めていない」ことを認めている(それはそれで彼の強さでもある)。「アイアンマン」トニー・スタークは結婚して子供を得て一見幸せに過ごしているが、5年前の敗北を、敗北で失った少年(「自分が戦いに巻き込んでしまった少年」でもある)のことを忘れられない。「ブラック・ウィドウ」ナターシャ・ロマノフは(すさんだ人生を歩んだ後にたどりついた)「家族」としてのアベンジャーズの崩壊に心を痛めている。「ホークアイ」クリント・バートンは「家族」を失い自暴自棄になり世界中で悪人を殺して回っている。そして「(マイティ・)ソー」ことソー・オーディンソンは…… ぶっちゃけ、ソーがいちばんヤバい状態である。『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』から『同/バトルロイヤル』(原題の『ラグナロク』がいいなあ。なぜ変えた)の数年の間にかなりヘビィな展開が続いた上に『インフィニティ・ウォー』で致命的なミステイクをしちゃった(あれは仕方ない。わたしは責めませんが)ソーの最後の試練の仕上げが「無抵抗なサノスの首をはねる」…… いくら1500年生きてたとはいえ、厳しすぎるでしょここ数年の展開。製作者は鬼か。

「倒すべき敵は既にいない。消えた人々は取り戻せない。残った人々はその現実を受け入れて、それでも生きていくしかない」…… そんな状態が続くかと思われたが、そこに現れたのが、アントマンことスコット・ラング。彼が「希望」を持ってくる(ついでに笑いも持ってくる。シリアスで息苦しい展開の中、彼のユーモアに何度救われたことか)。「アントマン」を取り巻く技術でタイムトラベルを可能にして、インフィニティ・ストーンを失った現代に、過去からストーンを持ってきたら、消えた人々を取り戻せるかもしれない。敗北した事実は覆せない。復讐するにも相手がいない。でも、もしその敗北で失ったものを取り戻せたら、自分たちはやり直せるかもしれない。『エンドゲーム』の物語が、ここからようやく動き出す。

過去のインフィニティ・ストーンを持ってくる「タイム泥棒」計画(英語だと「the time heist」、直訳すると「タイム強盗」)の各エピソードについては、ここでは泣く泣く割愛。名シーンだらけ、というかこの映画のキモの部分なんだけど、あくまでもこの記事の目的は「構成の不思議」を語ることなので…… 語りたい(泣)。

今まで積み重ねられてきたキャラクターたちによる各エピソードが良すぎて気づきにくいけど、ここから延々とインフィニティ・ストーンを確保する話が続く。「タイム泥棒」計画の目的は「6つの石を揃えてサノスの「指パッチン」で消えた人々を復活させる(それによって生き残った人々の心も復活させる)」こと。なので、実は、ブルース・バナー博士(ハルク)が指パッチンして全員復活して良かったね、で話が終わってしまう。

ただ、そうすると「Avengers(正義の復讐者)」というよりは「Revivers(復活者)」ってことになって「タイトルに偽りあり」になってしまう…… という訳で?アベンジャーズをアベンジャーズ足らしめる為に用意された仕掛け、それが「2014年のサノス軍」。2014年に時間移動した現在のネビュラと2014年のネビュラが同期してしまい、2018年に起こった出来事が2014年のサノス(以下「2014サノス」)にバレてしまい「未来の俺が成した偉業を覆そうとするアベンジャーズ許すまじ」ということで、2014サノス軍が現在に押し寄せてくる。書いてても面倒なんだけど、そうとう無茶な設定だよねこれ(笑)。「取って付けた感」満載。でも、ノー戦闘で「みんな幸せになりました」(厳密にはそうでもない。「元に戻った」訳ではないし、敗北の事実は変わってないから)ってのも、アクション活劇映画としてはアレだし、そもそも客としてもアベンジャーズの大活躍が観たい。なので、1本の映画の構成としては無茶だけど、MCU映画としては、そしてヒーロー活劇映画としては、実に正しい選択。無理を通せば道理が引っ込む。

6つの石を集めてハルクが指パッチンして5年前に消えた人々が戻ってきた(らしい)、という場面から一転、2014サノス軍がタイムスリップしてアベンジャーズ本部を壊滅させる。あそこの見せ方、上手いよなあ。指パッチンの衝撃の気絶から目覚めてホッとしたハルクが見上げた上空の大戦艦。鳥のさえずりを聴いて安堵したアントマンをいきなり襲う砲撃(瞬時にしっかりマイクロ化して衝撃を避けるスコットは優れた戦士)。6つの石をつけたままのトニー製ガントレットをめぐる小競り合いを挟みつつ、2014サノスvs元祖アベンジャーズの3人(キャプテン・アメリカ、アイアンマン、ソー)の対決になだれ込む。ソー+アイアンマンの共闘(マーク85の背面に展開するアレは「ナノ・ライトニング・リフォーカサー」というらしい。響きがカッコイイね!)やキャプテン+ムジョルニアの衝撃(ソー「I new it」)、キャプテンのヴィブラニウム製の盾が半壊(せっかくトニーから返してもらったのに!)、絶望せずに縦のベルトを締め直すキャップからの「Avengers! Assemble」!確かに熱い!熱い展開!

でもちょっと待って。2014サノスのした「悪いこと」って何?そもそもつい十数分前に現在にきた人らだよ?まあもちろん「全世界の消滅を目論む大悪人」ではあるんだけど、でもそこに「復讐」要素なくね?という。

『インフィニティ・ウォー』でのサノス(以下「2018サノス」)はアベンジャーズを蹂躙し完敗させて、おまけに勝ち逃げして(あの世に)去った。復讐する相手がいないアベンジャーズのところに「都合よく」現れたのが、過去から来た2014サノス。アベンジャーズの誰一人として、2014サノスに「正しく」復讐できる人はいない(かろうじてその資格があるのはガモーラとネビュラか)。そもそも今の今まで接点すらなかったんだから。

冷静に考えると、すごいよね、この強引な展開。ただし、製作者側だってそんなことは重々承知。そうでなければ、こんな台詞は入れない。
ワンダ「わたしはすべてを奪われた」
2014サノス「お前が誰かも知らない」
ワンダ「分からせてあげる」
見事に会話が通じてない(笑)。製作側の自虐ギャグ。劇場で声上げて笑いそうになったよ。

『インフィニティ・ウォー』で、2018サノスにヴィジョンを目の前で殺された上に指パッチンで自らも消されたワンダ。その数時間(ピーターによると感覚的には「5時間くらい」)後に復活して戦場にきたら2018サノス「にそっくりな奴」がいて地球を攻めている。そりゃ全力で倒したくもなるだろう。でもこの場面、2014サノスが圧倒的に正しい。初対面なんだよ、このふたり。

この後、「I am IRONMAN」で感動の勝利があり(でも、その勝ち方ってどうなん?…… という思いもあるけどトニーの最期に免じて許す)、地球の平和は守られ、アベンジャーズたちそれぞれのエピローグに繋がる訳だけど、ハッピーエンドなのかこれ?という。

『アベンジャーズ/エンドゲーム』の「不思議な」構造をあらためて整理すると、こんな感じ。だいたいの時間も計ってたのでそれもついでに書いておこう。
  • 【敗北】15分
    『インフィニティ・ウォー』の敗北の総仕上げ。惨敗。2018サノス勝ち逃げ。
  • 【回復(に向けた取り組み。上手くいっていない)】15分
    復讐相手がいない。被害は元に戻らない。残された人々の心の問題。からのスコット・ラング到着!
  • 【復活1】30分
    タイムトラベルうまくいきそう。アベンジャーズ本部に全員集合。インフィニティ・ストーンの説明。
  • 【復活2】60分
    タイム泥棒作戦開始!
  • 【復讐(っぽいけど実は単なる迎撃)】30分
    本来の復讐相手(2018サノス)には勝ち逃げされたけど都合よく似たような相手(2014サノス)が襲ってきてくれたから全力で反撃したった。
  • 【エンディング】30分
時間配分が映画のすべてではない。「どんでん返し」モノなら前振りが圧倒的に長くて一瞬で話をひっくり返す部分がメインということもある。ただし『エンドゲーム』の場合、メインが「復活」部分にあると考えるのが妥当だと思うが、復讐シーンがメインとほぼ繋がっていない。ものすごく盛り上がったアベンジャーズの戦い自体は「素晴らしいオマケ」みたいなもの。「祭り」と言い換えてもいいかもしれない。

と、ここまで書いて批判的に読めたら、それはたぶんわたしの書き方が悪い。基本的にものすごく楽しんで観た。そうでなきゃ、3時間もあって尻が痛くなるような作品を複数回観ないよ。11年続いたMCUシリーズの白眉を飾る大作としてふさわしい「ファンサービス映画」だし「人々を楽しませる為にそこまでぶっ込むか」という製作者の努力も素直に称えたい。「各キャラクターの機微を描こうとしたら敵がいなくなっちゃったよ。そうだ!過去のサノス連れてきて戦わせちゃえ!」って発想は発明だと思うし、同時間軸に存在してしまったふたりのネビュラの同期(サイボーグだからね)で情報漏れ、とか見事なアイデア。MCUファンの多くにとっては「すばらしい作品」になったのは間違いない。

ただ「普通の映画じゃないなあ」ということだけは、ほんのちょっとだけでも頭の隅に置いておくと良いかなあ、と。「普通の人は真似しちゃいけませんよ」という、それだけの話。

長くなってすみません。